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論点別コラム給食費の無償化と家計

給食費の無償化で、日本の家計や子どもの食事が変わるかはまだ分かっていない

給食費の無償化で家庭の食費や子どもの食事がどう変わるかを日本で測った研究は、今回確認した範囲にはありません。分かっていることは、海外の全員無料化の研究と、日本の自治体が回答した目的や検証の状況です。

「家計」「子どもの体重」「自治体の検証」は別の問いです

給食費の無償化について調べられているのは3つの別々の問いです。1つめは、全員無料にした地域で家庭の食費や食料品の買い方が変わったか。2つめは、無償化で子どもの体重が変わったか(栄養や食事内容を測った結果は、今回参照した研究にありません)。3つめは、無償化している自治体が目的や成果をどう確かめているか。1つめと2つめは海外の研究、3つめは日本の行政資料で答えます。

米国では、子どものいる家庭の食料品支出の減少が報告されています

米国で貧困世帯の多い学校が全校生徒の給食を無料にできる制度について、家計の購買記録を使った研究は、子どものいる家庭の月々の食料品支出が約5%減り、低所得世帯では食料不安に分類される世帯が減ったと報告しています。小売の販売記録を使った別の研究は、子どものいる家庭の購入の減少で大手チェーンの食料品販売が約10%減り、影響の大きいチェーンは全店で価格を約2.5%下げ、対象外の家庭の食費負担も下がる波及があったと推計しています。後者は査読前の研究論文です。

英国イングランドの入学1年目では、肥満とBMIの低下が報告されています

英国イングランドで2014年に始まった入学後3年間の給食の全員無料化について、4〜5歳児の身体測定記録を調べた研究は、入学1年目の終わりに普通体重の子どもが増え、肥満とBMIが下がったと報告しています。著者らは、主に以前は所得要件で対象外だった子どもが家庭の弁当から給食へ切り替えたことによるとみています。家計の所得や親の就業への影響はほとんど見られませんでした。

米国では、低所得地域の学校で肥満の割合のわずかな低下が報告され、まとめでは肥満の変化の確からしさは低いとされています

カリフォルニア州で、生徒の約8割がもともと無料・減額給食の対象だった低所得地域の学校を調べた研究は、全員無料化に参加した学校で、参加しなかった対象校と比べて肥満の割合が0.60ポイント下がったと報告しています。一方、米国の研究6本をまとめたレビューは、給食を食べる生徒の割合の増加は中程度の確からしさで認めたものの、出席・肥満・停学の変化は確からしさが低いか非常に低く、食事内容、家計への影響、食料不安を扱った対象研究は見つからなかったと報告しています。

日本では、ほぼ全員がすでに給食を食べています

海外の研究は、無料化の前に給食を食べない子どもや弁当の子どもがいた環境の結果です。文部科学省の資料では、完全給食を実施している公立学校の割合は、2023年5月1日時点の学校数で小学校99.5%、中学校97.1%で、重度のアレルギーで弁当を持参する生徒や、中学校を中心とした選択制の給食などにより、公立学校でも約28万5千人が給食を恒常的に食べていないと推測されています。学校数の割合は食べている子どもの割合そのものではありませんが、多くの子どもはすでに給食を食べています。同じ資料は、生活保護の教育扶助や就学援助の対象となる子どもが全児童生徒の約14%で、ほとんどの場合すでに給食費は無償だと整理しています。日本の無償化は、多くの家庭にとって給食を食べるかどうかではなく、給食費を払うかどうかの変化であり、海外の結果をそのまま当てはめられません。

無償化している自治体で、成果の検証を実施済みか予定しているのは2割に満たない状況です

文部科学省が2023年9月1日時点の調査を整理した資料では、小中学生全員を対象にしたものに限らず何らかの形で給食費を無償化している自治体は722(全員対象は547)で、以下の割合はこの722を分母にしています。約9割が保護者の経済的負担の軽減や子育て支援を目的に挙げ、成果目標を設けた自治体は13.4%、成果の検証・評価を実施済みか予定している自治体は16.5%でした。無償化した自治体と、していない自治体で、家庭の食費や子どもの食事を同じ方法で比べた研究は、今回の確認では見つかりませんでした。

参照した研究の標本と報告

同じ論点を扱っていても、研究が調べた対象と報告の範囲は違います。標本と報告を並べて読みます。

研究 標本 報告 限界
学校給食の無料化が家計の食料品購入に与える影響:米国の全員無料化制度からMichelle Marcus、Katherine G. Yewell(2022) 米国の家計の購買記録。貧困世帯の多い学校が全校生徒の給食を無料にできる制度(地域適格制度)への郵便番号単位のさらされ方で比較 子どものいる家庭の月々の食料品支出が約5%減り、制度の対象が多い地域ほど減少が大きかったと報告した。低所得世帯では購入する食品の質の改善と、食料不安に分類される世帯の減少も報告している。 米国の制度で、無料化の前は所得に応じた無料・減額給食があり、給食を食べない子どももいた環境の結果。日本の公立小中学校のように、ほぼ全員がすでに給食を食べている場合の無償化とは条件が違う。
学校給食の政策は誰にでも及ぶ:米国の学校給食制度への小売の反応Jessie Handbury、Sarah Moshary(2021) 米国の小売店の販売記録。全校生徒の給食を無料にできる制度(地域適格制度)が地域ごとに順に導入された時期の違いを比較 地域で全員無料化が始まると子どものいる家庭が食料品の購入を減らし、大手チェーンの食料品販売が約10%減ったと報告した。影響の大きいチェーンは全店で価格を約2.5%下げ、対象外の家庭にも食費の負担が下がる波及があったと推計している。 査読前の研究論文で、米国の小売市場と制度の結果。日本の給食費無償化で同じ購入の変化や価格の変化が起きるかは検証していない。
全員対象へ:学校給食の無料化が子どもの体重に与える影響Angus Holford、Birgitta Rabe(2022) 英国イングランドで2014年9月から始まった、公立学校の入学後3年間の給食の全員無料化。4〜5歳児の身体測定記録を、測定時期の違いを使って比較 全員無料の給食に触れた期間が長いほど、入学1年目の終わりに普通体重の子どもが増え、肥満とBMIが下がったと報告した。主に、以前は所得要件で対象外だった子どもが家庭の弁当から給食へ切り替えたことによるとみており、家計の所得や親の就業への影響はほとんど見られなかったとしている。 イングランドの4〜5歳児で、無料化の前は弁当を持参する子どもが多かった環境の結果。日本の公立小学校のように、ほぼ全員がすでに給食を食べている場合の無償化とは条件が違う。
学校給食の全員無料化と子どもの肥満Anna M. Localio、Melissa A. Knox、Anirban Basu、Tom Lindman、Lina Pinero Walkinshaw、Jessica C. Jones-Smith(2024) 米国カリフォルニア州の公立学校で、全校生徒の給食を無料にできる制度の対象となった3,531校。2013〜2019年に5・7・9年生で測ったBMIから学校ごとの肥満の割合を算出 制度に参加した学校では、参加しなかった対象校と比べて肥満の割合が0.60ポイント下がり、もとの割合に対して2.4%の減少にあたったと報告した。提供食数は参加校でだけ増えたとしている。 生徒の約8割が無料・減額給食の対象だった低所得地域の学校での結果で、学校単位の割合の比較。日本の公立学校のように全員がすでに給食を食べている場合の無償化とは条件が違う。
学校給食の全員無料化と学校・生徒の成果:系統的レビューMaureen K. Spill、Rupal Trivedi、Rachel C. Thoerig、Arin A. Balalian、Marlene B. Schwartz、Craig Gundersen、Angela Odoms-Young、Elizabeth F. Racine、Margaret J. Foster、Julie S. Davis、Amanda J. MacFarlane(2024) 米国の全員無料化制度を、無料化していない学校と比べた非無作為の研究6本(6州、1万1千校以上) 給食を食べる生徒の割合の増加は中程度の確からしさで報告され、出席・肥満・停学の変化は根拠の確からしさが低いか非常に低いとした。食事内容、家計への影響、食料不安を扱った対象研究は見つからなかったと報告した。 米国の一部の州に限られた少数の研究のまとめで、日本の研究は含まない。根拠の確からしさが低い成果が多い。

一次資料と確認日は研究検証台帳の各ページに記載しています。

この論点に対応する問い

  1. 給食を全員無料にした地域で、家庭の食費や食料品の買い方が変わったと報告されていますか?

    米国の研究では、子どものいる家庭の食料品支出の減少が報告されています。日本の給食費無償化で家庭の食費を測った研究は、今回確認した範囲にはありません。

    研究

  2. 日本で給食費を無償にした自治体で、子どもの栄養や体重がよくなったと研究で示されていますか?

    今回確認した研究には、日本で無償化した自治体と、していない自治体、または無償化の前後で、子どもの栄養や体重を比べたものは含まれていません。海外では英国の4〜5歳児とカリフォルニア州の低所得地域の学校で肥満の低下が報告されていますが、給食の利用状況が日本と違う環境の結果で、米国の研究のまとめは肥満の変化の確からしさを低いか非常に低いとしています。

    研究

  3. 給食費を無償にしている自治体は、その目的や成果をどのように確かめていると国の調査で分かっていますか?

    文部科学省の整理では、2023年9月時点で給食費を無償化している自治体のうち、約9割が保護者の経済的負担の軽減や子育て支援を目的に挙げ、成果目標を設けたのは13.4%、成果の検証・評価を実施済みか予定しているのは16.5%でした。教育委員会の回答の集計で、無償化の効果を測ったものではありません。

    行政統計

この整理で分からないこと

限界
この整理は個々の家庭の家計や子どもの食事の変化を予測しません。海外の研究は制度も給食の利用率も日本と違います。英国は弁当を持参する子どもが多かった4〜5歳児の結果で切り替えは著者らの解釈、カリフォルニアは約8割がもともと無料・減額給食の対象だった学校の学校単位の比較、米国のまとめでは肥満の変化の確からしさが低いか非常に低く、小売の研究は査読前です。自治体の割合は2023年9月1日時点の教育委員会の回答の集計で、家計や子どもへの効果を測ったものではなく、その後の国の負担軽減や自治体の変更も反映していません。市区町村ごとの給食費の扱いは、各自治体の公式案内に載っています。