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論点別コラム奨学金と進学・返済

奨学金と進学・中退・卒業後の暮らしの関係は、どこまで調べられているか

奨学金の影響は、進学するかどうか、在学を続けられるか、卒業後に返済を抱えて暮らしがどう変わるか、という別々の問いに分かれます。給付型と貸与型でも問いは違います。研究が調べた範囲と、まだ調べられていない範囲を分けて読みます。

新制度の境目の学年を生まれ月で比べた分析では年収210万〜370万円の層で進学率の差が報告され、保護者調査では収入による進路の差が縮まっていません

2020年度に始まった修学支援新制度について、国の縦断調査で新制度の境目の学年を生まれ月で比べた分析は、世帯年収210万〜370万円の層で、新制度の対象になった7月生まれの高等教育進学率が、開始直前に高校を卒業した1月生まれより9.2ポイント高かったと報告しています。210万円以下の層では有意な差はみられませんでした。国立教育政策研究所の保護者調査では、給付の内定者の約半数が奨学金なしでの進学を「非常に困難」と答えた一方、世帯収入による進路の差は縮まっていないと報告されています。縦断調査の分析は生まれ月による1学年ずつの対比で、年収の区分は調査の回答による目安です。保護者調査は希望・予定の進路への回答で、回答率は2割に満たず、制度がなかった場合との進学率の差を直接推定したものではありません。

貸与型奨学金を借りやすくなると進学が増えたという報告は、1999年の制度変更や2005年ごろからの予約採用についてのものです

1999年に貸与型奨学金の収入基準の地域区分がなくなった変更を1996〜2003年のデータで調べた研究は、新たに貸与を受けられるようになった層で短大・大学への進学確率が上がったものの、効果は制度変更の直後に限られたと報告しています。2005〜2011年の高校生の進路追跡や2014年度の調査などの個票データを使った研究は、高校在学中に採用が決まる予約採用に大学進学を促す効果があったと報告し、2005年11月の高校3年生の調査では、低所得層で予約採用と大学志願の強い関連が報告されています(志願段階の関連で、因果効果ではありません)。いずれも現在の貸与の条件や新制度のもとでの効果ではありません。

中退については、日本は全国の集計値の分析で、個人を比べた研究は米国のものが中心です

日本の1973〜2005年入学の大学中退率を使った時系列分析は、主に貸与型奨学金の時代の全国集計で、奨学金受給率の上昇が1〜2年遅れて中退率の低下と結び付いていたと報告しています。米国では、給付の受給資格の境界を比べた研究で学位取得の増加が報告される一方、低所得の学生を無作為に分けた実験では、4年制大学の学生の2年間の在学継続は1.7ポイント増えたものの、6年以内の学士号の差は統計的に有意ではなく、学位取得への効果はごく小さいという結果でした。文部科学省の2024年度の調査では、中退者の最も中心的な理由が「経済的困窮」に分類されたのは13.2%でした。

貸与型奨学金を受けた人の結婚の時期と子どもの数を見た日本の研究は1本です

日本の全国パネル調査の付帯調査を使った研究は、とくに2年制の学校を卒業した女性で、貸与型奨学金を受けたグループの結婚の時期が遅く、子どもの数も少なかったと報告しています。受給は本人や家庭の事情で決まるため、違いのすべてを奨学金の影響とは読めません。米国では、学生ローンと女性の第1子の出産の遅れとの関連(借入額がかなり大きい場合に目立つ。因果効果とは読めない)と、借入の増加による住宅取得率の低下が報告されています。米国の学生ローンは金利や返済の仕組みが日本と異なります。

日本の給付型奨学金・授業料減免で進学した人の卒業後の就業や所得は、今回の確認範囲にありません

日本の新制度の研究が扱っているのは、進学したかと、進学後に給付を受けたかまでです。在学中の支出と勉強時間については、2014・2016・2018・2020年度の学生生活調査で受給者と似た属性の学生を比べた別の研究があり、新制度の効果を見たものではありません。貸与型中心の研究では、同じ大卒者どうしで卒業直後の収入に差はみられませんでした。米国では、テキサス州の公立4年制大学の初年次の低所得の学生で、連邦の給付額の境界による追加給付の資格がその後の所得を増やしたという報告がありますが、日本の給付型奨学金で同じことが起きるかを確かめるには、受給者と同じ条件の非受給者を卒業後数年以上追う比較が必要です。

自治体の返還支援や個別の家庭の判断は、この整理の外にあります

ここで扱ったのは、日本の国の奨学金制度と米国の給付・学生ローンについて、進学・中退・卒業後との関係を調べた研究と国の統計です。自治体が行う奨学金の返還支援の条件の読み方は、関連する読みもので扱っています。どの奨学金を使うか、進学するかといった個別の家庭の判断を、これらの研究から決めることはできません。

参照した研究の標本と報告

同じ論点を扱っていても、研究が調べた対象と報告の範囲は違います。標本と報告を並べて読みます。

研究 標本 報告 限界
21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)特別報告文部科学省、浜銀総合研究所(2023) 2001年に生まれた子どもを追う全国の縦断調査のうち、修学支援新制度の開始直前に高校を卒業した1月生まれと、開始年度に進学した7月生まれの比較(文部科学省の調査研究として浜銀総合研究所が分析) 世帯年収210万〜370万円の層では、新制度の対象になった7月生まれの高等教育進学率が1月生まれより9.2ポイント高く、学力や親の学歴などを考慮しても差が残ったと報告した。210万円以下の層では有意な差はみられず、進学後の給付型奨学金の受給率は両層の7月生まれで5割前後だった。 生まれ月の違いを制度の有無の差として使う比較で、1学年ずつの対比です。世帯年収は調査の回答から区分した目安で、実際の支援対象とは一致しません。進学後の在学継続や卒業後の就業は扱っていません。
高校生の高等教育進学動向に関する調査研究 第二次報告書濱中 義隆、小林 雅之、吉田 香奈、朴澤 泰男、岩田 弘三、日下田 岳史(2023) 全国の全日制高校など700校の3年生の保護者を対象にした2021年12月の調査(有効回答4,930人)と、2022年3月の追加調査(1,164人) 給付型奨学金の受給が内定した人の約半数が、奨学金なしでは進学が「非常に困難」と答えた一方、新制度の導入後も、世帯収入や子どもの数による高校卒業後の進路の差は縮まっていないと報告した。貸与型奨学金を避ける動きも確認された。 保護者が答えた希望・予定の進路の調査で、回答率は2割に満たず、定時制・通信制の高校は含みません。制度がなかった場合と比べた進学率の差を直接推定したものではありません。
奨学金の制度変更が進学行動に与える影響佐野 晋平、川本 貴哲(2014) 1999年に貸与型奨学金の申請に使う収入基準の地域区分がなくなったことを利用した、1996〜2003年の市町村データと、過去の居住地が分かる個人データ 制度変更で新たに貸与を受けられるようになった層では短大・大学への進学確率が上がったが、その効果は制度変更の直後に限られたと報告した。 1999年の収入基準の変更という特定の制度変更の効果で、現在の貸与額・金利・返還制度のもとでの効果ではありません。経済産業研究所の討議用論文で、同じ問いを扱う佐野(2019, Japan and the World Economy)と同じ系列の研究です。
奨学金は大学への進学、大学卒業後の収入拡大・正規雇用の促進に寄与しているのか萩原 里紗、深堀 遼太郎(2016) 大学生の生活実態調査、2005〜2011年の高校生の進路追跡調査、2014年度の教育費負担の実態調査など、既存の全国調査の個票データ 日本学生支援機構の予約採用(高校在学中に奨学金の採用が決まる仕組み)には大学進学を促す効果があったと報告した。奨学金を得て大学を卒業した人は高卒者より卒業直後の収入・時間当たり賃金・正規就業率が高い一方、同じ大卒者どうしでは差がみられなかった。 慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターの討議用論文です。対象は主に貸与型奨学金で、2017年以降の給付型奨学金や2020年からの修学支援新制度は含みません。卒業後の比較は卒業直後の時点に限られます。
教育の機会均等と予約採用の効用藤村 正司(2007) 2005年11月に全国の高校3年生とその保護者(4,000人)を対象に行われた進路調査と、その追跡調査 性別・きょうだい数・成績・父親の教育年数などを一定にしても、低所得層では予約採用で奨学金の採用が決まった生徒は、決まらなかった生徒より大学を志願しやすく、オッズ(なりやすさの比)は3倍近かったと報告した。 日本学生支援機構の広報誌『大学と学生』に掲載された分析です。2005年の高校3年生の志願段階の関連で、採用されるかどうか自体が成績や家計に左右されるため、因果効果を推定したものではありません。
奨学金は大学中退を抑制するか――時系列データを用いた検討朴澤 泰男(2016) 学校基本調査から入学年度別に推計した日本全体の大学中退率(1973〜2005年入学の33時点) 家計所得の増加、日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金受給率の上昇、大卒者の高卒者に対する相対賃金の上昇などが、1〜2年ほど遅れて中退率の低下と結び付いていたと報告した。 全国の年次の集計値を使った時系列分析で、奨学金を受けた個人が中退しにくくなったかを直接比べたものではありません。対象期間は主に貸与型奨学金の時代で、給付型奨学金は含みません。
進学の先を見る:所得に応じた給付型奨学金が進学・在学継続・卒業に与える因果効果Benjamin L. Castleman、Bridget Terry Long(2016) 米国フロリダ州の所得に応じた給付型奨学金で、受給資格の基準のすぐ上と下にいた学生の比較 受給資格は進学、とくに州立4年制大学への進学を増やし、単位の取得と6年以内の学士号取得も増やしたと報告した。基準付近の学生では学位取得が22%増えた。 米国の1州・1制度の受給資格の境界付近の結果で、日本の給付型奨学金や授業料減免の効果を示すものではありません。全米経済研究所の討議用論文の版で確認しました。
給付型奨学金が卒業・所得・社会的な便益に与える効果Jeffrey T. Denning、Benjamin M. Marx、Lesley J. Turner(2019) 米国テキサス州の公立大学の行政記録と、低所得の学生で連邦の給付型奨学金の額が変わる境界の比較 4年制大学の初年次の学生では、追加の給付を受けられる資格が学位取得とその後の所得を増やし、所得の増加だけで政府の支出を10年以内に取り戻せる規模だったと報告した。 米国の連邦の給付制度と1州の公立大学の結果で、日本の制度へそのまま当てはめられません。
給付型奨学金の提供が大学での学業継続と学位取得に与える影響:ウィスコンシン州の無作為化実験Deven E. Carlson、Felix Elwert、Nicholas Hillman、Alex Schmidt、Barbara L. Wolfe(2019) 米国ウィスコンシン州の低所得の大学生48,804人を、給付の提供を受ける群と受けない群に無作為に分けた実験 4年制大学の学生では2年間の在学継続が1.7ポイント増えたが、6年以内の学士号取得の1.5ポイントの差は統計的に有意ではなく、全体として学位取得への効果はごく小さいと報告した。 米国の1州の民間財団による給付の実験で、日本の制度や金額とは異なります。事前登録した分析ですが、2年制の学生の一部の結果は探索的な分析にとどまります。
日本の若者における奨学金の借入と家族形成Jie Wang、Hideo Akabayashi、Masayuki Kobayashi、Shinpei Sano(2024) 慶應義塾大学が収集した日本家計パネル調査の第二世代付帯調査による、高等教育を卒業した若者の全国データ とくに2年制の高等教育(短大・専門学校など)を卒業した女性で、貸与型奨学金を受けたグループは受けなかったグループより結婚の時期が遅く、子どもの数も少なかったと報告した。 奨学金を受けるかどうかは本人や家庭の事情で決まるため、受給者と非受給者の違いをすべて奨学金の影響とは読めません。出版社のページは機械取得できず、著者のページの説明で確認しました。
子どもを持つ余裕はあるか:借入と米国の若者Michael Nau、Rachel E. Dwyer、Randy Hodson(2015) 米国の1997年時点の若者を追う全国縦断調査(2000年代に成人期を迎えた世代) 学生ローンは女性の第1子の出産を遅らせ、とくに借入額がかなり大きい場合に目立ったと報告した。住宅ローンやクレジットカードの借入は、逆に親になることに先立って現れていた。 米国の学生ローンの結果で、日本の貸与型奨学金の金利・返還制度とは異なります。借入の有無は無作為に決まっていないため、因果効果とは読めません。
学生ローンと住宅の取得Alvaro A. Mezza、Daniel R. Ringo、Shane M. Sherlund、Kamila Sommer(2017) 2004年に23〜31歳だった米国の全国的な世代を1997〜2010年まで追った、信用情報と在学歴を結び付けた行政データ 出身州の公立4年制大学の授業料の変化を手がかりに借入額の影響を取り出すと、学生ローンが10%増えると、学校を離れてから5年間の住宅取得率が1〜2ポイント下がったと報告した。 米国連邦準備制度理事会の討議用論文の改訂版で、のちに学術誌へ掲載された版とは数値の表し方が異なります。住宅の取得についての結果で、結婚や出産は扱っていません。
奨学金受給が生活時間、収入、支出に与える影響大澤 銀河(2025) 日本学生支援機構の学生生活調査(2014・2016・2018・2020年度)の個票データ 似た属性の学生どうしを比べると、奨学金を受けている学生は修学費の支出や勉強時間が多い傾向があり、給付型奨学金の受給者にも同じ傾向がみられ、貸与型の受給者との大きな差は観察されなかったと報告した。 在学中の生活時間と支出の比較で、中退・卒業・卒業後の就業や所得は扱っていません。財務省財務総合政策研究所の討議用論文で、執筆者個人の見解とされています。

一次資料と確認日は研究検証台帳の各ページに記載しています。

この論点に対応する問い

  1. 2020年4月に授業料等減免と給付型奨学金の拡充を行う修学支援新制度が始まってから、低所得世帯の子どもの進学は増えたと報告されていますか?

    国の縦断調査で、新制度の直前に高校を卒業した1月生まれと開始年度に進学時期を迎えた7月生まれを比べた分析では、世帯年収210万〜370万円の層で7月生まれの高等教育進学率が9.2ポイント高く、210万円以下の層では有意な差はみられていません。別の保護者調査は、進学率の増減を直接推定したものではなく、世帯収入による進路の差は縮まっていないと報告しています。

    研究

  2. 貸与型奨学金を借りられる人が増えたり、高校在学中に採用が決まったりすると、大学進学は増えると日本の研究で報告されていますか?

    研究ごとに中身が違います。1999年の収入基準の変更(1996〜2003年のデータ)では、新たに貸与を受けられるようになった層の短大・大学進学確率の上昇が変更の直後に限られました。予約採用に大学進学を促す効果があったと報告した研究が1本あり(2005〜2011年の調査など)、別の研究は2005年11月の高校3年生の低所得層で予約採用と大学志願の関連(因果効果ではない)を報告しています。

    研究

  3. 奨学金を受けている大学生は、受けていない学生より中退しにくいと研究で報告されていますか?

    結果は研究によって割れています。日本では1973〜2005年入学の主に貸与型の時代の全国集計で、受給率の上昇が1〜2年遅れて大学中退率の低下と結び付いていたという関連の報告です。米国では、受給資格や給付額の境界付近の学生(フロリダ州、テキサス州の4年制大学の初年次の低所得層)でその後の学位取得の増加が報告される一方、ウィスコンシン州の実験では4年制大学の2年間の在学継続が1.7ポイント増えたものの、学位取得への効果はごく小さいという結果でした。

    研究

  4. 大学などを中退した人の理由として、経済的な困窮はどのくらいの割合で集計されていますか?

    文部科学省の2024年度の調査では、中退者の最も中心的な理由が「経済的困窮」に分類されたのは13.2%でした。「その他」「不明」を除くと、最も多いのは「転学・進路変更等」の22.3%です。

    行政統計

  5. 貸与型奨学金や学生ローンを借りた人は、結婚や出産の時期、子どもの数、住宅の取得に違いがあると報告されていますか?

    日本で確認できた研究は1本で、とくに2年制の学校を卒業した女性で、貸与型奨学金を受けたグループは受けなかったグループより結婚の時期が遅く、子どもの数も少なかったと報告しています。米国では、女性の第1子の出産の遅れとの関連(借入額がかなり大きい場合に目立つ)と、学生ローンが10%増えると離学後5年間の住宅取得率が1〜2ポイント下がったという報告があります。

    研究

  6. 日本の給付型奨学金や授業料減免を受けて進学した人は、卒業後の就業や所得が変わると研究で示されていますか?

    日本の給付型奨学金・授業料減免については、今回確認した研究からは示されていません。新制度の研究が扱うのは進学したかと進学後に給付を受けたかまでで、卒業直後の収入を比べた日本の研究は主に貸与型が対象です。米国では、テキサス州の公立4年制大学の初年次の低所得の学生で、連邦の給付額の境界による追加給付の資格がその後の所得を増やしたという報告があります。

    研究

この整理で分からないこと

限界
この整理は、個別の家庭が支援の対象になるか、進学や返済がどうなるかを予測しません。縦断調査の年収の区分は支援の公式区分そのものではなく、日本の結婚の時期・子どもの数と米国の第1子の時期の結果は、受給や借入を無作為に分けた比較ではありません。貸与型の結果は現在の貸与の条件や新制度の効果ではなく、米国の結果は制度や金額が異なるため日本へそのまま当てはめられません。制度の最新の条件は日本学生支援機構や各学校の公式案内で確認してください。